オズの魔法使い (注・ネタバレ含む)

1900年に発表されたアメリカ児童文学の古典。アメリカ人にとっては『オズの魔法使い』は基礎教養になっているみたい。

時々アメリカ人の著作で引用されていたり薦められていたりするので、一度読んでみようかなって思って、完訳のハヤカワ文庫版を図書館で借りてみた。

ドロシーの愛犬のトトが生き生きとしていてかわいいので、犬好きにもお薦めの児童文学です。




漢字にふりがなが振ってあって挿絵がたくさん入っている児童文学はひさしぶりに読んだなあ。
まず、挿絵がよいです。絵のタッチが、1900年にアメリカで発表された挿絵と言われても違和感がない。けれど、日本人好みで、ヒロインのドロシーちゃんにかわいらしい少女マンガっぽさがあるという。カラスが舞う場面での遠近感等、デッサン力がしっかりしている方が描いているんだろうなあ。




しばらく読んでいった結果、ブリキのきこりに油をさしてあげる場面にさしかかる。これ、読んだことあるような。30年ほど前、小学校の図書室の本で。小さい子供向けに編集されたものだったので、あらすじ紹介みたいになっていて、つなぎのエピソードや描写が消えていたような。当時は、子供向けの魔法使いが出てくるような奇想天外な話をよく読んでいたので、たくさんある物語の一つという認識で、そんなに印象に残っていなかった。




まえがきでは原作者が、お行儀のよい教訓が含まれる物語ではなくて、ただただおもしろいだけの話を書こうとしましたって書いていたけれど。結果的に、おもしろくて教訓が含まれるお話になっています。


オズの魔法使いって、キャラが立っているから物語をつくる上でのお手本にもなるそう。とある本で紹介されていた。ヒロインは普通のかわいい女の子で、脇役が脳みそが欲しいかかし、ハートが欲しい木こり、勇敢さが欲しいライオンっていう。


かかしがなぜ話せるのかとか、木こりはなぜ生きていられるのかとか、かかしとブリキのきこりとライオンは話せるのに犬のトトだけ話せないところとかカオスです(笑)

物語に全体的にカラッとした明るさと優しさがある。舞台もそうだけれど、アメリカっぽい。小さい子供が好きそう。たぶん作者の人柄なんだろうな。(『不思議の国のアリス』はイギリスっぽい。)

子供のころの私は、こういう現実離れした話が好きだったのになあ。


現在の自分は、児童文学を純粋に楽しむよりも背景を見ながら読んでしまうところもあって…。




おえらいオズ様は会見する人を選んでいる。ただ噂話のみに一日を費やしている人々とは会おうとしない。このごろはだれも姿を見たことが無い、世界で一番魔法の力の強い、権力を持つ謎の魔法使いは…という。子供向けの児童文学でそう描くか、と。(本当に子供が読んでおもしろいことだけをめざして書いたのかっいてうくらい、大人が読んだ時に風刺が効いている…。作者の人生経験が反映されている?)


色鮮やかなオズの国よりも、育ての親のおじさんおばさんのいる故郷の灰色のカンサスに帰りたい、おうちが一番っていう女の子。小さい子ってそうなのかも…。


きこりの婚約者の老いた親がものぐさなために、娘が家事を一手に引き受けていて、そのため親が娘を結婚させたくなくて悪い魔女に娘の結婚の妨害を頼んだところとか。
その辺は、なんだかリアルだなあ。たぶん、100年前のアメリカって、老いた親の世話をするために好きな人がいても結婚できなかったっていうことが結構あったんだろうなあ。社会保障が家族や子供だけになっていたんだろうなあ。


ドロシーを捕らえた悪い魔女が、彼女に家事一切を命令するところとか。


ドロシーは普段は優しい女の子なのに。悪い魔女に嫌なことをされて腹を立てて、ひどいことをやり返すところとか。ヒロインなのに、決して優しいだけの女の子じゃなくて、かなり気が強いところもあるんだなあ。まあ、やられたからやりかえしたってことなんだけれど…。日本の女の子だったら、ああいうことしないだろうなあ…。(その場ではおとなしい代わりに、その後一生なにかにつけていろんな人に対して影で話を膨らませて言いふらされる。)


 

1900年にアメリカの、支配する側の、富裕層の白人が書いた話なんだなあっていう部分も時々出てくる。

 

遠くから来た人たちがいきなりそれぞれの世界の王になるところとか。普通は長年その土地に住んでいる、現地の人の中から選ばれるでしょ…。

自分達の暴力については、全て正当化。悪いやつだから殺されてあたりまえっていう。敵側の事情は全く書かないという。

文明国から来ましたってドロシーが語る部分は、100年前の欧米人の認識っぽい。
悪い人といい人をはっきりと分けていて、悪い人は殺してよいとされている部分とか。
悪い魔女=住民を奴隷にしたから
南北戦争があったのが、1861年-1865年だからかな…。

 

ネズミの女王がヤマネコに追いかけられているのを見て、ブリキの木こりが悪いやつだと判断するところだとか。
ヤマネコは自分が生きるためにエサを追いかけていただけなののでは…。

木こりは味方にとったら頼もしいファイターであるけれど、ヤマネコにとったらなぜなのかわからなかっただろうな…。

 

面識の無いヤマネコは悪いのに、友人のライオンが食べるためにシカを襲うのは悪くないのか(直接的には描かれていないけれど)とか、考えてしまう。


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原作小説版。ブロンド、水色のギンガムチェックのワンピース、ピンクの日除け帽、銀の靴、黒い毛並みの犬のぬいぐるみと共に。(ほんとはふわふわのもこもこの毛並みの黒い犬のぬいぐるみを右手に欲しかったなあ。) 

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1939年のジュディ・ガーランド主演の映画版。ブルネット。ルビーの靴なんだね。ほんとはおさげver.でも水色のリボンがつけられています。